平成24年度卒業式

第2回(平成24年度) 長崎県立大学卒業式 学長訓辞

平成24年度卒業式

 本日ここに、平成24年度長崎県立大学卒業式を挙行できますことは、誠に光栄に存じ、また大きな喜びであります。卒業される皆さん、大学院を修了される皆さん、誠におめでとうございます。また、卒業生の皆さんを今日まで育み,支え,励ましてこられたご家族の方々のお喜びはさぞ大きいものと存じます。心よりお祝い申し上げます。

 長崎県立大学を卒業される学生は、経済学部421名、国際情報学部129名、看護栄養学部102名、並びに大学院経済学研究科10名、国際情報学研究科7名、人間健康科学研究科8名、合計677名であります。また、ここには旧長崎県立大学および県立長崎シーボルト大学を卒業される学生も含まれます。その数は、経済学部12名、国際情報学部2名であります。

 さて、皆さんは、大学キャンパスから社会へ、また今日から明日の時代へと飛び発ちます。皆さんを待っている社会は、これまでのものとは相当に違うものになっていくでしょう。経済的にも、生き方への考え方も違う、質的に新しい時代であろうと思います。その新しい世界を築いていく、つくっていくという人類的課題を背負って生きて行くという晴れがましいミッションを託されたのが皆さんの世代であるわけです。なかなか大変な時代であることは覚悟しなければならない。しかし、学歌にもあるように「夢を追う」気力を持ち続け、遠い地平を目指して天を駆け、小さくても良いから自分なりに輝く努力を続けて頂きたい。

 「夢」という言葉から、皆さんそれぞれに様々な想いが広がると思います。私自身が思い浮かべることの一つに「I have a dream」というマーチン・ルーサー・キングの言葉があります。ご存知のように、アメリカ公民権運動のリーダーです。非暴力を掲げて黒人のうねりをつくり出し、アメリカ社会を変えていった人物です。賛同者がワシントンに集結したときに、キング師が人々に向かって行った演説の中にある有名な台詞です。その夢とは、黒人と白人の子供達が手を取り合って遊ぶこと、同じテーブルで食事すること等です。今から丁度半世紀前、1963年の夏のことです。1963年の夏とは、私にとっては、大学3年になった年で、一人前になるために本を読み、午後は懸命に実験をし、少しずつは複雑な化学構造式にも馴染みを感じるようになってきた時期です。ともかく今の今を生きるのが精一杯という時期に、キング師の「dream」に別の世界を見たような気がして、とても印象的に覚えているのです。1963年とは、一方、リンカーンによる奴隷解放宣言から実に100年が経っていたのです。制度や法律はできても、実際に社会の慣例や文化として根付いていくパラダイムシフトのためには、長い年月と積極的に動く人が必要であることを物語っている典型的事例です。

 翻って、皆さんのおかれている状況はどうでしょうか?皆さんが生まれたのは、日本経済のバブルがはじけたと言われる頃と時を同じくします。それ以後を「失われた10年とか、20年」と言いますが、ホントにそうでしょうか、私には疑問です。経済成長とはいつまでも続くものなのか。人々の生活に、あれば便利なものが一通り行き渡り、国内のインフラが一応整備されれば、経済成長が鈍化するのは当然です。いつまでも高度な経済成長が続く筈はないなと思いつつ、もう少し大丈夫と考えていて迎えたのがバブルの崩壊であり、リーマンショックであると言えます。これは、それまでの延長線上で考えれば「失われた時間」かもしれませんが、むしろ新しい時間が刻まれ始めたと考える方が良いのではないでしょうか。

 キング師の異議申し立てに見るように、「人は肌の色の違いによって差別されるべきではない」とする自明のことですら100年のときを経てそれを求める運動となり、その後幾多の困難と戦っています。経済や社会の、動きや考え方ははるかに複雑ですから成長経済からのパラダイムシフトは容易ではないと思います。日本は、150年前に近代化へ向けて歩み始め、70年前の戦争で方向転換はあったにせよ、本質的に経済成長の道をひたすら歩んできました。今は全く違った状況に遭遇しているのではないかと思います。考えてみて下さい。ヒトも含め生きとし生けるものが存在し得るのは、太陽のエネルギーがあるからです。太陽のエネルギーは無限ではなく、年間にこれくらいと数字で表すことができる決まった量です。「経済成長」も高々その範囲内でのことであり、永遠に続くとは考えられません。これは、悲観的な見方ではなく、地球というものがおかれている境界条件を冷静に考えれば必然的に出てくることです。それを大前提として、身の丈にあった経済的豊かさと市民としての健全な精神を持ち、「Sustainable」、すなわち、「持続可能な」、ということを実質的な意味のあることとして根付かせて行くことが今後の人類的課題であります。これまでに人類が遭遇していなかった困難に立ち向かうとすら言えるかもしれません。そして、皆さんこそがその課題に向かって行く輝かしい世代です。

 そんなこと言われても、と尻込みしたい気持ちになる人もいるかもしれませんが、時代の滔々たる流れはそちらへ向かっているのです。しかも、気がついてみたら日本はその先頭にいます。臆することなく、エイッと飛び込んでみましょう。今すぐ何をするのだ、という具体的なことはなくても「前へ」という気持ちをもち、逞しさとしなやかさを身につけていくことは大切だと思います。

 ここで、アインシュタインの言葉を引用したいと思います。アインシュタインはご存知のように、ニュートンの古典物理とは全く違う新しい学問のフロンティアを切り拓いた人です。最初に、「In the middle of difficulty, lies opportunity」= 困難の中に、チャンスがある」、そしてもう一つ、「Anyone who has never made a mistake=一度も失敗したことがない人は、 has never tried anything new =一回も新しいことに挑戦したことがない人だ」。ともかく、恐れずトライすることが出発点です。

 皆さんは、大学生としての時間をここ長崎県で過ごしました。国内でも違う地域へ行けば文化も考え方も随分違います。世界へ足を踏み出す機会があれば異質なものを感じ、異質なことを体験するでしょう。しかし、これまで4年間学んだことを基盤に一つ一つのことに自分なりの答えを出して行かなければなりません。答えが合っているか間違っているか、確かめることはできません。これだ、と考えたら前へ一歩踏み出すこと、これが大事なことです。

 以上をもって、私の訓辞とさせて頂きます。

 最後になりますが、長崎県知事 中村法道様、長崎県議会議長 渡辺敏勝様をはじめ多くのご来賓の方々には、ご多用にも関わらずご臨席頂きましたこと、誠に有り難うございました。心から御礼申し上げます。

平成25年3月19日                     

長崎県立大学 学長 太田 博道