平成23年度卒業式

第1回(平成23年度) 長崎県立大学卒業式 学長訓辞

平成23年度卒業式

 本日、ここに長崎県知事 中村法道様、長崎県議会議長 宮内雪夫様をはじめ多くのご来賓の方々にご臨席賜り、平成23年度長崎県立大学卒業式を挙行致しますことは、誠に光栄に存じ、また大きな喜びであります。長崎県立大学を卒業する学生は、経済学部360名、国際情報学部133名、看護栄養学部103名であります。この皆さんは新生長崎県立大学の第1期卒業生であります。大学院修了者もおられます。経済学研究科13名、国際情報学研究科学生8名、そして人間健康科学研究科19名、総合計636名であります。さらに、旧長崎県立大学あるいは県立長崎シーボルト大学を卒業される学生もおられます。その数は、経済学部43名、国際情報学部14名、看護栄養学部3名、人間健康科学研究科1名であります。

 皆さんのご卒業を心よりお祝い申し上げます。おめでとうございます。また、卒業生の皆さんを今日まで育み、支え,励ましてこられたご家族のお喜びはさぞ大きいものと存じます。心よりお祝い申し上げます。

 さて、皆さんは本学の学歌にあるように、夢を追いつつ、天翔るごとく、明日へと旅立ち、その時代を担っていかなければなりません。では、これからの時代とはどんな時代でしょうか。ひとことで言うと、人が人としての叡智が問われる時代と言えるのではないと思います。だからこそ生き甲斐がある、だからこそ一人ひとりの考え方や行動にしっかりしたものが求められると思います。

 最近良く、「持続可能性」とか「Sustainable」という言葉がよく使われます。一体どれくらいの時間を想定して、使われている言葉でしょうか。時間の流れを感覚的に捉えようとするとき、人は自然と向き合って「悠久」ということを感じます。明治の詩人藤村の作に「千曲川旅情の歌」という詩があります。その詩は「過し世を静かに思へ 百年もきのふのごとし」と結ばれています。卒業式を迎えた皆さんが、4年前ことを考えるとき、このスケールで延長すると、約15万年前にあたります。日本にも人類が到達していた頃と考えられます。

 今、「地球環境の持続可能性」をいうとき、大気圏の炭酸ガス濃度がしばしば問題になります。この濃度が上昇し始めたのは、イギリスで蒸気機関が利用され、石炭が使われた時からです。約200年前ですから、人類の歴史と比較すると「あっという間」で、先ほどのように皆さんの大学生活に短縮すれば、おとといあたりから、どうも空気の様子が変だぞと感じ始めたことになります。「地球環境の持続可能性」を考えなければならないというなら、皆さんが生きている間の時間よりもっともっと長いスケールで考えてみなければならないと言えそうです。ここに、人類としての叡智が試されることになります。

 昨年の3.11は、日本はおろか世界の人々にとって忘れてはならない日となりました。自然のエネルギーの巨大さを見せつけられると同時に、科学技術の極みの1つとも言うべき原子力発電のシステムとしての脆弱さを目の当たりにしたできごとでした。様々な観点からいろいろなことが語られました。そのなかに、放射性ウランの核分裂反応を人為的にコントロールしようとすること自体が、物理の奢りではないかという意見がありました。豊かな生活を実現するために役に立つと考えてきた科学技術の発達そのものに対する疑問がここにあります。

 原子力の利用は、二酸化炭素を排出することなくエネルギーを得ることができるメリットがあります。また、枯渇することが明らかである化石資源との対比で、いつまででも頼りになる様な印象で語られますが、これは正しくありません。放射性ウランの存在量にも自ずと限りがあり、今のペースでいけば100年から200年のオーダーです。石油や石炭が数億年前に生きていた生物を起源とする貯蓄物であるとするなら、放射性ウランは100億年以上前の宇宙創成、即ちビッグバンのときのなごりです。太陽が存在する限り人間がsustainableであるためには、照り続ける太陽に依存したパラダイムをつくりださなければなりません。

 翻って、日本の経済や社会はどうなっていくでしょうか。こちらは方程式を立てて、答えを見いだすことはできそうにありません。しかし、これまでの延長線上に将来の姿を描くことはできないでしょう。
 日本の国債の発行高は、税収の16年分、国民総生産GDPの200%にあたり、数字的には世界最悪です。地方債を合わせれば負債額はもっと大きくなります。1966年に建設国債として発行されて以来、一時期除いて増え続けていますから、世代として私達は、皆さんに謝らなければならないのだと思います。この病的状態を脱するために、できるだけ早く良い方へ向けて、舵を切らなければなりません。しかも、東北の復興・復旧の課題と両立させつつ、少なくともしばらくの間は綱渡り的エネルギー供給を前提にして方向転換をしていくのですから容易なことではないでしょう。少子高齢化が進むなかで、アジアの元気を取り込むという抽象的な表現でいわれる内容を実体のあるものにしていく工夫が望まれるところです。そのとき、東アジアへのGateway即ち玄関というに相応しい長崎県で4年間過ごした皆さんの感性が活きて来ることを願って止みません。
 世界の状況もなかなか厳しいものがあります。EUの創設以来の危機、アメリカの失業率、投資家の通貨の売買による為替相場の実態とは剥離した変動等々世界の経済は楽観を許しません。また、世界各地を見れば、民族間の抗争、宗教間の抗争も絶えません。
 生物としてのヒトは、デンプンだけで生きていく能力を捨てて、脳を進化させる道を選んだ生き物です。その発達した脳を存分に活かして、ロケットを飛ばして宇宙空間を探査することができました。あるいは自らの発生の歯車を逆回転させてiPS細胞を作り出すことにも成功しました。しかし、互いに協力して自己と他者が同時に幸せになるためにはどうすれば良いのかという方策は、未だに獲得していないようです。この「基本的な賢さ」を獲得する、あるいは今既に持っているものなら、具現化する作業こそが、皆さんにとって大切な課題ではないかと考えます。大げさに聞こえるかもしれませんが、時代の変換期を多感な青春時代に感じ、パラダイムシフトの必要性を感覚的にも捉えて学窓を巣立つ皆さんこそ、人類史におけるマイルストーン築いた世代として後世の人々によって語られるであろうことを私は信じています。

 最後に、改めて、皆さんの、一期生としての長崎県立大学卒業を心から祝い、これからの充実した人生を祝福して、学長訓辞とします。

平成24年3月19日                     

長崎県立大学 学長 太田 博道