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研究ピックアップ 
柴崎 貢志
看護栄養学部 栄養健康学科 教授 柴崎 貢志
脳内温度が脳機能に与える影響

看護栄養学部 栄養健康学科 教授
柴崎 貢志 (シバサキ コウジ)

#神経生理学 #細胞生化学
Q.01
研究テーマとその内容、具体的な取り組みについて教えてください。

A.
「脳内温度が脳機能に与える影響」が研究テーマです。変温動物と恒温動物では、知能・行動が大きく異なります。カエル・トカゲのような変温動物は、自身で巣作りをすることも、子育てをすることもありません。一方、恒温動物は、巣作りをし、子供が成長するまでしっかり面倒をみます。この違いをもたらすものは、両者の脳構造の違いと考えられてきました。しかし、私はこれに対して異を唱える仮説を提唱しました。恒温動物では脳内温度(体温)が常に一定に保たれているので、この温度を感知して、脳機能に活かしているに違いないと考えています。そして、様々な検証実験を行い、この仮説が正しいという証明を行っています。
Q.02
この研究をはじめようと思ったきっかけについて教えてください。

A.
私の友人のJulius教授(カリフォルニア大学)は、私達が熱を感知し、痛みを感じる分子メカニズムを解明しました。この熱を感じる分子は、TRPV1(43℃以上の熱で活性化)というイオンチャネル分子で、Julius教授が発見し、彼は昨年ノーベル生理学医学賞を受賞しました。私は国立生理学研究所に勤務していた時期に、糖尿病性神経変性症による痛み惹起がTRPV1の異常活性化で起こることを見出しました。この実験をしている時に、私達のような恒温動物の場合には、TRPV1のような温度センサーが常に体温をモニターし、生理機能に役立てているのではないかと考えるようになりました。
Q.03
研究内容が身近な社会とどのように関わり、影響を及ぼすのか教えてください。

A.
私は脳内に発現している温度センサー分子を探索し、34℃以上で活性化するTRPV4(TRPV1類縁体)が脳内温度を感知し、脳機能を向上させる仕組みを次々に明らかにしてきました。TRPV4は脳機能維持に必須の分子なので、この分子の機能異常は様々な疾患を引き起こします。TRPV4が脳機能にとても重要だという知見を応用し、てんかん・脳浮腫・網膜剥離・精神疾患の病態悪化メカニズムを解き明かし、新規の治療法を次々に開発してきました(NHKニュース、新聞などで多数報道されています)。また、昨年の高校生物の教科書から、温度を感じるメカニズムとして、TRP分子の特徴が掲載されています。
Q.04
今後、研究をどのように進めていこうと考えていますか。

A.
「脳内温度とTRPV4の関係性」を調べることで、様々な脳疾患の原因を究明し、そこから新たな治療法を開発しようと考えています。現在取り組んでいるのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という神経難病が発症する原因の究明・治療法の開発、ストレス性鬱病が発症する原因の究明・治療法の開発です。これら疾患の特徴を持つモデルマウスを遺伝子改変技術により作製し、脳内温度の動態、TRPV4の発現や活性の変化を調べます。最終的には、全国の様々な医学部との共同研究により、患者さんのサンプルを用い、私達が得たモデル動物実験の結果がヒトと一致することを検証します。こういった一連の研究活動を通じて、研究室で新たな疾患原因を解明し、新規治療法を開発し、社会貢献をしていきます。
Q.05
ゼミや講義で学生を指導をする上で、いつも心がけていることや大切にしていることはありますか。

A.
基礎医学研究・生命科学研究は様々な知識の積み重ねの上で成り立っています。学生の指導をする際には、少しずつ着実に知識が積みあがっていくように工夫しています。また、研究室という閉鎖空間で行っている実験が、いずれは社会の役に立つ大きな発見へとつながることを自覚してもらうにしています。研究活動は一人ではできません。上述したノーベル賞受賞者・Julius教授をはじめ、世界中の様々な研究者と活発に共同研究を行っており、学生達にも共同研究者との交流をさせ、英語力や国際的視点を高めています。世界でうちの研究室でしか出来ない研究手法を多数確立しており、将来、長崎県立大学をTRP研究の拠点にしていきたいと考えています。
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