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学生広報スタッフ「教員取材企画」~実践経済学科 講師 山邊 聖士先生~
2024-09-24
1.専門分野は何ですか?
主に社会政策論、福祉社会学などの分野を専門にしています。「社会政策」と聞くとあまり具体的なイメージが湧かないかもしれませんが、一般的に社会政策と呼ばれるのは、私たちの社会生活の維持や改善に資することを直接的な目的としているような政策のことです。具体的には、労働に関する政策、年金や医療に関する社会保障政策、障がい者や高齢者の福祉に関する政策などが社会政策を構成しています。
私がこれまで研究し、他の大学で教えてきたのは、主に社会保障や福祉に関する政策です。これらの政策は、政府が策定して終わるのではなく、実際に現場で運用されることが必要です。自治体など現場の最前線で、政策がどのように実施され、運用されているか、その背後にどのようなメカニズムが働いているのかといった問題に関心を持ちながら研究しています。具体的には、実際に現場にフィールドワークに行って、そこで働かれている方の話を聞いたり、そこで行われていることを観察したりするなど、社会学的なフィールドワークをしながら研究を行っています。そこでの知見を生かしながら、この大学では主に社会政策論、社会保障論といった科目を担当しています。
2.教育理念は何ですか?
教育理念とは少し違うかもしれませんが、私が講義やゼミを行う際に意識しているのは、私自身が専門としている領域においても知らないことばかりであるという自覚を持ちながら、学生と一緒に学んでいくという姿勢で教育に携わることです。もちろん、これまで研究するなかで得た知見などは講義に反映させたり、ゼミで学生のみなさんに伝えたりしていますが、普段の講義やゼミでは、私自身が学生の皆さんの言動から気づきを得ることも多くあります。自分は色々なことを知っていてそれを学生に教えるというよりも、自分はまだまだ知らないことが多いということを前提に、異なる情報やものの見方を持った人たちが集まって、そこから新しい創発的な学びを得ることができるような場を講義やゼミでつくりたいと考えています。学生のみなさん1人ひとりの気づき、納得、疑問を大切にしながら、私自身も一緒に勉強していくような形で教育活動に携わっていきたいと思っています。
3.学生時代をどのように過ごされましたか?
私は佐世保市の出身で、大学進学を機に東京へ引っ越しました。大学に入学した当初は体育会系の部活に入りましたが、1年生の夏休み明けごろに辞めて、目標を失いどうしようかと思いました。とりあえず、その時々で興味の赴くままにやりたいことをやろうと思い、映画を一日に3本観たり(笑)、とりあえず面白そうな授業に出てみたり、学外の活動に参加したりしていました。その中でも、特に学外の活動に出ていくなかで、年齢や所属、分野などの垣根を超えて、さまざまな学びや活動ができる機会が多くある点が、佐世保と東京で大きく違うと感じるようになりました。そうした機会を通じて、大学2年生になるころには教育に関心を持つようになり、大学生、中高生、小学生など異なる世代の人々が共同して学ぶイベントを企画・開催する団体を友人たちと立ち上げたこともあります。
大学時代のもう一つ大きな転機は、大学3年生に進級するタイミングで難病を発症したことです。そのときに初めて入院するという経験をしました。それまで大きな病気をしたことがなかったので、初めて触れた医療の世界がとても不思議に感じました。たとえば、病院というところが患者にとってとても閉鎖的であることを痛感しました。また、入院先の病院には小さいお子さんが入院している病棟もあり、病院の中にいるお子さんにはどういう教育や学びの機会があるのかということを調べて、院内学級の存在を初めて知りました。こうした経験をするなかで、医療や福祉の領域に関心を持つようになり、退院して大学に戻ったタイミングで医療や福祉に関連する講義も受けるようになりました。そこから、社会保障や福祉の領域への関心が深まり、大学院でもその分野に関わる研究を行いたいと考えるようになりました。こうした経験は、その後のキャリア形成に大きな意味を持ったと思います。
4.大学教員を目指そうと思ったきっかけは何ですか?
大学教員になりたいと思ったことはあまりないのですが、学者や研究者になりたいという想いはありました。大学生の時に学者や研究者の方たちと接するなかで、「学問や研究は、人生を注ぎ込むのに値するものだ」という気持ちが芽生えて、その道に進みたいと思うようになりました。たとえば、私が大学1年生だった2012年に、日本の大学における秋入学の導入が話題になっていました。これに関心を持って調べていくなかで、秋入学のメリットに焦点を当てた議論が多くある一方、逆にデメリットはないのかといったことを疑問に思うようになりました。そこで、当時私がいた学部の1年生向けの講義を担当していた先生にアポイントをとって、秋入学の問題点について話を伺うために初めて研究室を訪問しました。それまでは、大学の先生たちの講義を一方的に聞くだけでしたが、自分から話を聞きに行ってやりとりするなかで、学者ってこういう人たちで、こういうことを考えているんだということを垣間見ることができました。また、その先生自身が学者になろうと思ったきっかけに感銘を受け、こういう道もあるということを知ったのが、学者になることを目指す最初のきっかけでした。そこから大学院という選択肢があることも知りました。
もう一つ大きかったのが、病院を退院して大学に戻り、医療政策に関する講義を受講したことでした。その講義を担当していたのが、のちに私の大学院の指導教員になる方でした。授業の中では、医療政策にとどまらず、「学問とは何か」「社会科学とは何か」といったテーマにも触れられ、その先生の話を聞くなかで、学問の道に進みたいという思いが強まりました。最初は医療について知りたいという漠然とした目的で受けていた授業でしたが、もっと深く学問の道に進んでみたい気持ちが芽生えたという意味で、その授業を受けたことは大きかったです。
5. 長崎県立大学で学ぶメリットや大学の魅力は何だと思いますか?
私自身もフィールドワークを軸とした演習を行っていますが、フィールドワークをはじめとした実践的なプログラムが多いことは、長崎県立大学における学びの特筆すべき点だと思います。「しまなびプログラム」や「企業インターンシップ」といった科目では、学生が実際に外に出てさまざまな経験を積むことができ、大学としても力を入れています。私自身も演習の中で、大学の外に出て話を聞いたり、現場を観察したりしていますが、他の先生も演習の中でフィールドワークを取り入れている方が多くいらっしゃるようで、そういう機会が多いことは非常に良い点だと思います。また、特に地域創造学部に関して言うと、さまざまなかたちで「地域」と関わりをもつプログラムが多いのも特徴の1つだと思います。そのなかで、「地域」とはそもそもどういうものか、その歴史や現状、課題などについて学ぶ機会が大きく拓かれているように思います。こうしたテーマに関心のある学生さんにとっては非常に魅力的な学びの場になっているのではないでしょうか。あとは、都市部から離れたコンパクトな大学で、学生と教職員の関係が近いことも魅力の1つといえるかもしれません。自分がこれまで所属してきた大学のなかでも、ここは学生と教員の距離が最も近いように感じています。
6. 学生に求めるものは何ですか?
たとえちっぽけに見えるようなことでも構わないので、学生のみなさん1人ひとりが思い思いに、そのときどきでやってみたい、学んでみたい、経験してみたいと思うことに、思う存分たっぷりと取り組んでほしいと思います。そのなかで、何か自分にとって光るもの、「これは自分にとって重要だ」と思えるものが見つかれば、それがその先の人生を生き抜く糧になると思います。そのきっかけを掴むような時間を大学で過ごしていただけるとよいのではないでしょうか。私は大学で教える仕事がメインですが、学生全員が私の講義やゼミを面白いと思ってくれることはなかなか難しいと思います。ですが、その中の誰かが何か光るものをそこから見つけることができるような、そんな講義やゼミを行いたいと考えています。
7.今、もし先生が学生に戻れるとしてやりたいことがあれば教えてください。
直近で思うのは、英語をもうちょっとやっておけばよかったなというのはあります。今年の6月にデンマークの国際学会に参加し、初めて英語で研究報告する経験をしました。それまでも英語の重要性は理解していたつもりでしたが、今回の経験でその大切さを身に染みて感じました。実際に現地に行って、自分の話を面白がってくれる人がいて、自分も面白いと思う研究報告をしている人がいるのだけれど、そこには言語の壁がある。もっと色々なことを話したいのに話せない、もっとこういうことを伝えたいのに伝えられない、もっとコンタクトをとりたいのにとれないというもどかしい思いをしました。英語を学ぶことそれ自体というよりも、自分にとっての大事なものにもう少し手を伸ばすために英語という道具があるとよかったのかなとそのとき思いました。
8. 学生に一言メッセージをお願いします。
先ほどの答えとも重なりますが、自分のなかの光るものを大事にしながら、日々を生き抜いていただければと思います。それから、もしチャンスがあれば、これまでの「枠」を超えるようなことにも取り組んでみてほしいです。先ほどお話ししたように、長崎県立大学はコンパクトな大学であるのが良い面でもあると思う一方、外の世界を感じにくい閉塞感のようなものを抱いている学生もいるのではないかと感じます。周りに合わせるのではなく、もし自分で何かをやってみたいと思い、そのチャンスがあるのであれば、どんどん境界を超えて、外に出て行ってみてください。少し勇気が必要かもしれませんが、たとえ失敗したとしても、「やってみて良かった」と思えることが多いはずです。ぜひ、外の世界への一歩を踏み出してみてください。
今回のインタビューでは、山邊先生の専門分野や教育理念に加え、先生の学生時代から大学教員としての道を歩まれるに至った貴重なエピソードを伺うことができました。取材を通じて感じたのは、先生の学問に対する熱い想いです。また、大学生活の過ごし方や時間の使い方は自分次第で変えることができると感じました。だからこそ、みなさん、これからは自分がやりたいことに思う存分、果敢に挑戦し、「自分にとって光るもの」を見つけてみましょう!
山邊先生、お忙しい中インタビューにご協力いただきありがとうございました!
取材:地域創造学部実践経済学科 4年 髙橋美喜
書記:経営学部国際経営学科 3年 竹本つぐみ
撮影:地域創造学部公共政策学科 2年 塩川七帆