ヒトなどの哺乳類は、脳内の温度を一定に保つために多くのエネルギーを費やしています。なぜ脳の温度を37℃に保たねばならないのか?我々はヒトの賢さが、一定の脳内温度と深く関係すると予想し、その検証実験を進めています。
さあ、考えてみてください。変温動物と恒温動物では、知能・行動が大きく異なります。カエル・トカゲのような変温動物は、自身で巣作りをすることも、子育てをすることもありません。一方、恒温動物は、巣作りをし、子供が成長するまでしっかり面倒をみます。この違いをもたらすものは、両者の脳構造の違いと考えられてきました。しかし、さっきーはこれに対して異を唱える仮説を提唱しました。恒温動物では脳内温度(体温)が常に一定に保たれているので、この温度を感知して、脳機能に活かしているに違いないと考えました。上述したノーベル賞受賞分子・TRPチャネルが脳内温度を感知していると考えたのです。そして、様々な検証実験を行い、この仮説が正しいことを立証しました(左図)。
これまでに、TRPV4(34℃で活性化)が脳内温度を常に感知することで、神経活動が促進することを見出しています。TRPV4が脳内温度を常にモニターする仕組みを持っているが故に、恒温動物は変温動物よりも高度な脳機能を有することを証明しました(左図)。また、TRPV4がうまく働かなくなると、統合失調症に類似した行動異常につながることも明らかにしました。これらのTRPV4が脳機能にとても重要だという知見を応用し、てんかん・脳浮腫・網膜剥離の病態悪化メカニズムを解き明かし、新規の治療法を開発してきました(NHKニュース、新聞などで多数報道されています)。
最近、ストレスによって鬱病が発症するメカニズムを突き止めました。ストレスによる脳温上昇がTRPV4異常活性化を引き起し、鬱病が発症することを明らかにしました(東大薬学部との共同成果、Science Advances 2021)。この知見を起点にして、ストレス性鬱病の治療法開発研究を進めています。