本文へ移動

逆行列補題

2022-11-11
カテゴリ:数学
逆行列補題
\(A,D\)を可逆行列,\(B,C\)を計算が成立する適当な寸法の行列とすると,以下が成り立つ \[ (A +BDC)^{-1} = A^{-1} - A^{-1} B(D^{-1} + CA^{-1} B)^{-1} CA^{-1} \]
カルマンフィルタなどの逐次的推定でしばしば必要になる公式である.一見複雑怪奇で覚えられそうにないが,実は\(A\)に微小な摂動\(BDC\)を加えたときに逆行列がどう変わるかを教えてくれる式である. 従って,非可換であることを除けば,よく使われる近似式 \[ \frac{1}{1 + x} = 1 - x + O(x^2) \] と本質的には同じである.その発想で証明してみる.
証明
\(B,D,C\)の各要素は\(A\)に比べて十分小さいと(仮に)考える.このとき \begin{eqnarray} (A +BDC)^{-1} &=& (A(I + A^{-1} BDC))^{-1} \\ &=& (I + A^{-1} BDC)^{-1}A^{-1} \\ & \approx & (I - A^{-1} BDC)A^{-1} \end{eqnarray} という近似を得る.つぎに \(D\) をそれと近い \(\tilde D\) に変えることで,厳密な\( A +BDC \) の逆行列にできるとして\(\tilde D\)を決める.\[ (A +BDC) (I - A^{-1} B \tilde D C)A^{-1} = I \] 両辺に右から \(A\) を掛けてから展開・整理すると\[ - B\tilde D C + BDC - BDC A^{-1} B \tilde D C = 0\] \[ B (- \tilde D + D - DC A^{-1} B \tilde D ) C = 0 \] 任意の\(B,C\)について等式が成り立つには\(B,C\) で挟まれた括弧の中が 0でなければならない.これは整理すると \[ (I + DC A^{-1} B) \tilde D = D \] とできる.さらに左から\(D^{-1}\),右から\(\tilde D^{-1}\) を掛けると,\(\tilde D^{-1}\)  が求まる (直接,\(\tilde D\) を得ようすると先に進めなくなる).これより\[  \tilde D = (\tilde D^{-1})^{-1} = D^{-1} + C A^{-1} B  \] となり,補題の成立が証明された.