集合論(Set Theory)その2

 


 同型対応のつく集合
 同型対応がつく集合同士は何が”同型”なのであろうか。
 元の個数が有限個の有限集合 A, Bに同型写像が存在したとすると、どういうことがわかるかを考えてみよう。

 同型写像とは B のすべての元に A のどれかの元が対応していて、A の異なる元は B の異なる元に対応しているのであるから、それぞれの元を並べて、線で結べば(手をつなぐ)、元の数が等しいか等しくないかが判断できる。したがって、有限集合間に同型写像が存在するということは、それら集合の元の個数が等しいということを意味する。A と B の元同士は過不足なく手をつなげるわけである。

A         B

a1  <---->  b1
a2  <---->  b2
a3  <---->  b3
a4  <---->  b4
・         ・
・         ・
an  <---->  bn


ただ、元の個数が等しいかどうかは、数えればもっと手っ取り早く調べることができるわけだが、この1対1・上への写像を使えば、たとえ”数える”ということを知らない人でも、個数が等しいかどうかを判断できる。”なんと便利なものだろう~!!”とは、しかし思わないだろう。数えることを知らない人などいないのだし。ところが、数えることを知っていても数え上げることができない場合はどうだろう。そんな場合があるのか?、ある、それは元の個数が無限である無限集合の場合である。よく知っている無限集合は自然数の集合 N、整数の集合 Z、有理数の集合Q、実数の集合 R、複素数の集合 C等がある。これら無限集合を含めて、一般の無限集合の元の個数を数え上げることは、事実上不可能である。個数を数え上げるという方法は無限集合に対しては無力である。数え上げなくても個数が等しいかどうかを判定してくれる方法は! そう、それが同型写像の考え方なのである。数えるということができない無知の者のためでなく、数え上げることができないものに対しても、少なくとも等しいか否か、の判定をしてくれる方法なのである。このことはすべての集合を、同型写像が存在するか否かで分類できることを示唆している。

 集合の濃度
 二つの集合の間に同型写像が存在するとき、これらの集合の濃度(cardinal number)が等しいという。集合 A の濃度を #(A) とかき、A が有限集合ならば、#(A) はまさに元の個数を表す。

 濃度とは個数の概念の拡張なのである

 次に自然数が無限に存在することを前提にして他の無限集合の濃度を求める。

 自然数の濃度
 自然数の集合Nの濃度を(アレフゼロ)と定める。

もちろん、は無限濃度であり任意の有限濃度 n に対して n < である。

 定理1 整数の集合Zの濃度はである。
 証明
 整数を次のように並べると、自然数と1対1対応がつく。これが上への写像であることは明らか。

N :  1  2   3   4   5   6   7  ・・・

  ↓ ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓ ・・・

 Z : 0  1  -1   2  -2  3  -3  ・・・

 証明終わり

 定理2 有理数の集合Qの濃度はである。
 証明
 まず正の有理数に次のようにして順番をつける。

つまり
1  2  1/2  1/3  3  4  3/2  2/3  1/4  ・・・

と順番付けをし、これに 0 と負の有理数を加えて

0  1  -1  2  -2  1/2  -1/2  1/3  -1/3  3  -3  4  -4  3/2  -3/2 ・・・

と並べると、整数のときと同様にして自然数の全体Nと1対1で上への対応がつく。
証明終わり

以上より、N, Z, Qに対して
NZQ かつ #(N)=#(Z)=#(Q)

が成り立つ。

 それではすべての無限集合の濃度は等しいのであろうか。カントールは対角線論法により実数の全体Rの濃度はより大きいことを示した。

 定理3 実数の集合Rの濃度はに等しくない。
 証明
 まず、開区間 (0, 1) = {x ∈ R | 0 < x < 1} の濃度が に等しいと仮定する。すると、
(0, 1) = { x1, x2, x3, ・・・}
とできる。各xi を無限小数に展開する。すなわち、

x1 = 0.x11x12x13x14・・・x1n・・・
x2 = 0.x21x22x23x24・・・x2n・・・
x3 = 0.x31x32x33x34・・・x3n・・・
・・・・
xn = 0.xn1xn2xn3xn4・・・xnn・・・


 ここで、 0.x11x22x33x44・・・xnn・・・ に対して、
a = 0.a11a22a33a44・・・ann・・・
を次のように定義する。
もし、xii≠1 ならば aii = 1、 もし xii = 1 ならば aii = 2
 このとき、明らかに
0 < a < 1
であるけれども、その定義から
a { x1, x2, x3, ・・・} = (0, 1)
(どのxiとも小数第i位が異なる) である。これは矛盾である。

次に、開区間(0, 1)が実数Rと同型であることを示す。
次のような写像を考える。
この写像のグラフを示す。
明らかに、この写像は全単射である。
証明終わり

このことにより無限にもいろいろあるということが知られるようになった。

 実数の無限濃度
 実数の濃度を(アレフ)という。そして、
<
が成り立つ。

 無限濃度の構成法
 任意の無限濃度 α に対して、#(A) = α のとき、A のべき集合 2A を考えると、その濃度 #(2A) = 2α は α < 2α を満たす無限濃度である。
このとき、
であることが知られている。

 一般には一つの無限濃度からそれよりも明らかに大きい無限濃度を構成できる。したがって、いくらでも大きい無限が存在する。しかし、 < α < を満たす無限濃度αは未だに知られていない。

 無限とは不思議である。その一端がまさに、

NZQ かつ #(N)=#(Z)=#(Q)

である。  通常、われわれは部分は全体より「小さい」とか「少ない」というイメージを持っている。しかし、濃度という個数を一般化した新しい尺度で、無限集合を見ると、全体と部分とが等しいのである。この事実をわれわれは受け入れなければならない。自然数と実数では、確かにこの関係は崩れるが、実数の中では再びこのことが現れる。定理3の証明の中で見たように、開区間(0,1)は確かに実数全体の一部分であるが、これらが同型であると言うのが証明のポイントであった。
 ちなみに、無限濃度の大小関係は次のように定義する。
無限濃度の大小関係
 A、B を集合とする。このとき、

A ⊂ B かつ AとBが同型でないとき、#(A) < #(B)
 と定める。

 無限濃度の和と積の定義

 αとβを任意の無限濃度とする。α = #(A)、β = #(B) かつ A ∩ B = φ となる集合 A、B をとる。このとき、
α+βは和集合 A ∪ B の濃度 すなわち、 α+β = #(A ∪ B)
と定める。
 αとβを任意の無限濃度とする。α = #(A)、β = #(B) となる集合 A、B をとる。このとき、
α×βは直積集合 A × B の濃度 すなわち、 α×β = #(A × B)
と定める。(誤解の無い限り α×βをαβと書く。)

    上記の定義のもとで、次の各等号が成り立つ。
  1. 、 ×
  2. + n =、 × n = ( n は任意の自然数)
  3. +・・・=、 ×・・・× (和の数は高々個、積は有限個)
 実数の濃度に関して、次が成り立つことが知られている。
×
すると、2次元数空間R2と1次元数空間Rとが同型ということである。これは雑な言い方をすると、
平面と直線が1対1かつ上への対応をもつ
である。
 そこで、開区間 (0, 1) の直積集合 (0, 1)×(0, 1) から開区間 (0, 1) への同型対応を具体的に考えてみよう。
(蛇足: 実は×× も知られています。すると、3次元空間と直線が過不足無く対応すると言うわけです。われわれ3次元空間の生き物も直線の中に埋め込まれてしまうわけです。)