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ロンゴロンゴとは

モアイ像で有名なイースター島(現地の言葉で「ラパヌイ」)には、巨石建造物だけでなく、 あやとりや歌などの文化があったことが分かっている。では文字はあったのだろうか。 1864年にフランス人の Joseph-Eugène Eyraud はイースター島に渡り、 記号の列で覆われた木製品の存在を報告している。 この記号列はロンゴロンゴと呼ばれ、文字かも知れないと言われているが、 文字だとしても現在は読める人がいない未解読文字である。
Eyraud はどの家にもロンゴロンゴの彫られた木製品が在ったと報告しているが、 現在は 20点ほどが遺されているのみである。 これらの木製品には、現地の言葉や収蔵している博物館の所在地に由来する名前がつけられている。 多くは板状で、両面に記号が彫られている。板の各面は A/B ないし Recto/Verso という名前で区別される。 木の表面には浅く幅広の溝が彫られ、その溝の中に細く深い線で彫られた記号が並んでいる。
さて、これまで未解読の文字は何を手がかりに解読されてきたのだろうか。古代文字の解読というと、 Champollion によるエジプトのヒエログリフ(神聖文字)の解読が有名である。ヒエログリフの解読では、 ロゼッタストーンが大きな手がかりとなった。 ロゼッタストーンには、古代エジプト語のヒエログリフと民衆文字およびギリシャ文字の三種類の文字で、 ほぼ同一の内容が書かれていた。 この中でギリシャ文字が既知であったことが解読の出発点となった。

ロゼッタストーンが元々置かれていた場所は、様々な文字を使う人々が集まる文化の交流地だったと推測される。 ところがイースター島は孤島である。 右の地図は中央にイースター島を配したもので、周囲が一面の海であることが見て取れる。 しかも周囲約60kmという小島であるから、手作りの船で周囲の島と頻繁に交流していたとは考えにくい。 そうなると、ロゼッタストーンのような文化の交流点に置かれた対訳コーパスの存在を考えることは難しい。

イースター島周辺の地図

現地の歌との対応づけ

ロンゴロンゴは詠唱する際に記憶の助けとなる絵文字であるという説(Mètraux による)がある。 イースター島の歌については、 現地の博物館が、 住民の歌を聞き取り、アルファベットで記録するという仕事をしている。 もし、ロンゴロンゴが歌を記録したものであるとすれば、 同じ内容を記したロンゴロンゴと歌詞のペアを見つけることはできないだろうか。 もしそのようなペアが見つかれば、ロゼッタストーンのように解読の手がかりになるのではないだろうか。

そこで、歌の歌詞に含まれるシラブルの出現順序とロンゴロンゴに含まれる記号の出現順序を比較し、 同じ記号が現れるときに同じシラブルが現れるかどうかについて調べる、という実験を行った。 非常に多くの組み合わせが考えられるが、そのすべてを計算機を使って力ずくで調べ上げるという方法をとった。 このように全探索することで、記号とシラブルの出現順序が一致しない場合に、一致しないことが保証できる。 この実験は科学研究費補助金(24500313)の助成を受けた研究の一部として行われた。 多くの仮定を置いた上ではあるが、結果として、歌詞とロンゴロンゴの行の組み合わせの中には、ごく少数、 対応する可能性があるものが見つかった。この成果は、情報考古学会誌に掲載され、同学会の2013年度論文賞を受けた。 この研究によって見つかったペアが実際にある種の対訳コーパスとなっているのか否かについては、 今後の研究課題である。

その他にも、記号とシラブルの出現頻度や共起頻度について比較するなど、 現地の歌とロンゴロンゴ記号を比較する研究を行っている。

こうした研究の背景には、計算機を使った自然言語処理の発展がある。 1990年代から、特定の言語や言葉の意味に依存しない手法がいろいろ研究されてきている。 こういった手法では、記号が連続して出現する頻度(N-gram と呼ぶ)を用いることが多い。 ロンゴロンゴは遺物の個数は少ないものの、多数の記号が連続した文書とも言うべき状態で残されており、 統計的自然言語処理などの記号が続けて出現する様子から情報を抽出しようとする研究にとって、 比較的適用しやすい対象であると思われる。

おまけ

左の写真は2009年3月に筆者がイースター島で地面を撮影したもので、細い葉を持ち地を這うツル状の植物が写っている。 一方、下の記号列は、Aruku と呼ばれるロンゴロンゴ板の Verso面 4行目の冒頭にあるもので、 写真にあるツル植物に似た形状の記号の出現例である。この記号は他のロンゴロンゴ木製品にも多く出現する。 一例だけではあるが、ロンゴロンゴを創る際に当時のラパヌイ人が身近な事物を象形したことを感じさせる。

ロンゴロンゴ関連研究発表

参考文献