ロンゴロンゴは詠唱する際に記憶の助けとなる絵文字であるという説(Mètraux による)がある。
イースター島の歌については、
現地の博物館が、
住民の歌を聞き取り、アルファベットで記録するという仕事をしている。
もし、ロンゴロンゴが歌を記録したものであるとすれば、
同じ内容を記したロンゴロンゴと歌詞のペアを見つけることはできないだろうか。
もしそのようなペアが見つかれば、ロゼッタストーンのように解読の手がかりになるのではないだろうか。
そこで、歌の歌詞に含まれるシラブルの出現順序とロンゴロンゴに含まれる記号の出現順序を比較し、
同じ記号が現れるときに同じシラブルが現れるかどうかについて調べる、という実験を行った。
非常に多くの組み合わせが考えられるが、そのすべてを計算機を使って力ずくで調べ上げるという方法をとった。
このように全探索することで、記号とシラブルの出現順序が一致しない場合に、一致しないことが保証できる。
この実験は科学研究費補助金(24500313)の助成を受けた研究の一部として行われた。
多くの仮定を置いた上ではあるが、結果として、歌詞とロンゴロンゴの行の組み合わせの中には、ごく少数、
対応する可能性があるものが見つかった。この成果は、情報考古学会誌に掲載され、同学会の2013年度論文賞を受けた。
この研究によって見つかったペアが実際にある種の対訳コーパスとなっているのか否かについては、
今後の研究課題である。
その他にも、記号とシラブルの出現頻度や共起頻度について比較するなど、
現地の歌とロンゴロンゴ記号を比較する研究を行っている。
こうした研究の背景には、計算機を使った自然言語処理の発展がある。
1990年代から、特定の言語や言葉の意味に依存しない手法がいろいろ研究されてきている。
こういった手法では、記号が連続して出現する頻度(N-gram と呼ぶ)を用いることが多い。
ロンゴロンゴは遺物の個数は少ないものの、多数の記号が連続した文書とも言うべき状態で残されており、
統計的自然言語処理などの記号が続けて出現する様子から情報を抽出しようとする研究にとって、
比較的適用しやすい対象であると思われる。