絶えて桜のなかりせば

2012.04.04

「世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし」とは、古今和歌集にある在原業平の歌である。ここまで言わせる花はもちろん桜だけ。今年もその季節が巡り来て、本学のグランドの桜も見事満開で美しい。

「前線」という言葉は、本来気象に関する言葉である。しかし、「梅雨前線」、「秋雨前線」という季節を示す言葉に混じって、「桜前線」という言葉さえある。桜が開花するくらい温かくなってきた、というまぎれもなく季節を表す言葉である。ついでに、「花冷え」というセットになる言葉もちゃんと用意されている。桜の開花は、昔は農作業を始める時期の目安に使われたらしい。今では、「サクラサク」と「サクラチル」という合否を知らせる電報は出番が無くなったが、学校では新学期の始まりとリンクする。

桜には多くの種類があるが、「桜前線」の対象となっている種類は、ご存知の「ソメイヨシノ」である。この品種は、江戸時代に生まれたようだ。自家受粉でできる種は出芽しないので、自分で子孫を残すことはできない。今日本中に咲いているのは、人が接ぎ木や挿し木で増やしたものである。メシベとオシベからくる遺伝子の交配がないので、どの木も全く同じゲノム(DNAの全体を意味する言葉)を有する。別の表現ではクローンである。したがって、環境に対する反応の仕方は全て同じである。「自分はもう少し温かくなってから咲くよ」という類いのお寝坊さんはいない。冬の寒い時期を経て、気温がある程度以上になれば、どの花も一斉に開花する。気候に対する反応が同じことと、日本中どこにでもあるので、「桜前線」という表現が成り立つ。

桜の大きな特徴は、葉が出る前に開花することである。これが生命力を感じさせて、「スゴイ」ということになる。ひねくれた言い方をすれば、葉っぱも「葉がない」状態から出てくるのであるが、こちらは「スゴイ」の対象とはならない。1枚出たら、そこから太陽エネルギーを得て、次々と連鎖的に、と考えればスゴクはないかもしれないが。

桜は散り方も見事である。咲いている期間が短いので、最初にあげた歌のように、その季節には落ち着かない人も多くなる。業平の頃にはもちろんTVの予報もなかった。また、花が萎んでいくとか、そのまま落ちてしまうことなく、花びらが1枚ずつ散っていくのが特徴である。そこが「いさぎよい」となり、日本人の感覚に合うのであろう。花吹雪という言葉も桜だけにふさわしい。

佐世保校の桜と愛宕山の写真

【佐世保校の桜と愛宕山】