私の先生-1(中学)

2013.4.3

3月、4月は大学にとって年度末、始めで慌ただしい。4年生が懐かしい学舎から巣立つとともに新入生が入ってくる。学長にとって卒業式と入学式の訓示を用意するのはなかなか大変なことである。聴いている学生は去年と違うといっても、ホームページに過年度分が掲載されているので同じことは言えない。かといって卒業生や新入生に言いたいことがそんなに変わるわけでもない。

またこの時期には、自分が教わる立場だったときはどうだったろうかと、懐かしい先生のことを思い出すことも多い。生徒が70歳になっているので、既に鬼籍に入られている先生も少なくないが、年賀状のやり取りは続いている先生もおられる。そんな先生のことをシリーズで書かせて頂きたい。

中学で初めて習う英語の先生は厳しい方だった。ニックネームは「アンサー」という渡辺先生。「Answer my question」とよく生徒に訊くのでこのニックネームである。発音に大変厳しい先生で「l」と「r」はもちろん、「n」の発音も随分練習させられた。カタカナで書けば「エヌ」ではなく、「エンヌ」とならなければいけない。また後になって考えるととても幸運だったことに、最初の4ヶ月だけだったが、アメリカ人の先生が一緒に教室に来た。ミス・ヤーブローというtall Texanであった。教室では日本語は一切話さない。我々は自分の名前を書いたボール紙を机の上においといて、先生に「What is your name?」と訊かれたとき、きちんと「My name is XX」と答えなければならない。カタカナで書いておくと、アンサー先生にこっぴどく怒られた。お陰でheardとhard、 loveとrub、sheとsea等を区別して発音できるようになったのかもしれない。ミス・ヤーブローがアメリカに帰ることになったとき、音楽の先生の指導で、皆で「Should old an acquaintance be forgot…」と英語版「蛍の光」を歌ったのだから、1学期で大分うまくなったのかもしれない。

理科の先生も印象的であった。「トリチエリー(注1)」というのがニックネームであった中川先生だ。多分1年生の初めの頃に「トリチエリーというおじさんが」で始まる講義で、大気圧のことを教えて頂いたのが皆に印象的で、このニックネームなのだろう。裸電球のスタンド、テニスボールを使って、月の満ち欠けについて話を聴いたときは心から納得できた。2011.09.12(中秋の名月)および09.26(中秋の名月、その2:月の公転時間と満ち欠け)に書いた太陽と地球と月の話のネタは、実はここまで遡る。もう、60年近く前の話であるから、余程印象深い理科の1コマであったということだ。

注1) トリチエリーの真空

トリチエリーはイタリア人の名前で、大気圧というものがあることを示した人である。一端を閉じた長さ76 cm以上ガラス管に水銀を満たす。開いている方の端を、水銀を入れた皿の中に入れて、管を垂直にする。大気圧が1気圧のときは、水銀柱の長さは76 cmとなり、それより上の部分は真空となる。この真空部分を「トリチエリーの真空」という。皿の中の水銀の面を大気圧が押し、その力が管の中の水銀の76 cm分の重さと釣り合うのである。圧力は面積に比例するので、管の太さ、外側の水銀面の面積は、水銀柱の高さに関係ない。水銀柱の高さは気圧によって変化するので、この原理を使えば気圧計ができることになる。圧力を表す単位に「Torr」という単位があるが、トリチエリーからとったものである。実験が行われたのは1644年である。
 水銀の代わりに水を使って同じ実験をすると、10 m強の長さのガラス管が必要である。水銀の単位体積当たりの重さは水の13.5倍なので、76 cmですむ。

トリチエリー