生体触媒化学シンポジウム

2018.01.25

 多くの方は、「生体触媒化学」と言われても、何を意味するのかご理解できないことと思う。実はこの分野は私が30年以上研究して来た分野であり、その国内シンポジウムが1ヶ月くらい前に本学佐世保校で開催されたので、本日はPRさせて頂くこととする。  生体触媒とは英語ではBiocatalysisという。「触媒=catalysis」とは特定の化学反応を促進する物質で、それ自身は反応の前後で変化しない。これに「生体」が付くと生命体が作り出す触媒ということになる。すなわち酵素のことであり、酵素の正体はタンパク質である。タンパク質には例えば筋肉となる等他の機能を有するものもあるが、特定の反応だけを加速する触媒能を有するものもあるという訳だ。細胞内にある沢山の化合物の中のある特定の化合物の特定の部位に作用して、特定の化合物に変化する反応だけを加速する。ややこしいけど、「特定」が3つもつくのが酵素の特徴だ。このお陰で、化学的に言えば多くの化合物の混合物からなる細胞中で、必要な化学変化だけが起こり、その個体は生命を維持することができる。  ところが、ところが、である。このように、非常に厳密に化合物を識別する筈の酵素と「人工化合物」を混ぜると、なんと酵素が「人工化合物」に作用し、その反応を加速することがある。酵素から見れば、これまでお目にかかったこともない化合物にかじりつくことがあるということだ。細胞から取り出して使うこともあるし、細胞中に入ったままで使うこともある。「細胞中に入ったままで使う」とは、微生物を人工的な化合物に作用させることになる。酵素は細胞内にある様々な化合物を厳密に識別できるように長い年月かかって進化してきたのであろうが、化学物質にはそれ以外に「工場で作られるものもあるのだ」ということは想定していなかったと言えるかもしれない。  1970年代には、他の生物の遺伝子(DNAのほんの一部で、1種類の酵素を生合成するための設計図と考えて良い)を大腸菌や枯草菌(納豆菌)の細胞内で発現させる(タンパク質を作らせること)技術が発達した。タンパク質はアミノ酸(20種類ある)が300, 400, ときには1000個以上繋がった物質であるが、20世紀の終わりには、その特定の1個だけを狙い撃ちして別のアミノ酸に変える技術も発達し、工業的に利用するために都合の良い非天然型の酵素をつくり出すことも可能になっている。  生体触媒反応とは多くの場合単一酵素による化合物変換を指し、発酵というときは、微生物の多段階の代謝反応を利用したものづくりである。医薬品、機能性物質、工業原料、アミノ酸、飲料、食品等々幅広いものがこれらの方法で作られている。関連する大学学部は、農学部、工学部、薬学部、理学部等にまたがり、さらにコンピュータ上でタンパク質の三次元構造や化学物質と酵素の相互作用を推定するIT分野の研究者等々多彩な人が集う、幅広く面白い学会である。


DNAの模型

酵素の三次元構造

コンピュータ上での酵素の
活性部位モデル