60年の変化その9 計算機

2016.10.26

 我々が小学生の頃は算盤塾に通っている仲間が多かった。学校でも算盤の時間はあった。長い布袋に入れ、ランドセルの端に差し込んで学校へ持って行く。今の子供達はそもそも算盤がどんなものか知っているのだろうか。長方形の木の枠があり、それがもう1枚の木で上下に分けられている。何本もの竹の軸があり、それに菱形の珠が付いていて、上下に動かすことができる。珠の数は下に4個、上に1個である。図に示しがどうも上手くない。知らない人はネットでもう少しきちんとした写真を見て欲しい。

 私はけっして得意な方ではなかった、というより出来の悪かった部類だ。算盤の得意な友達が2桁、3桁のかけ算を暗算で苦もなくやってのけることが驚異的に感じられた。彼らは頭の中に算盤を置き、実際に珠を動かすらしい。下の珠は「1」を示し、上の珠は「5」を示す。したがって、答えが9までの足し算は1つの軸でできるが、加えた値が10以上になるときは隣の軸の珠を使わなければならない。十進法の概念を掴む為にも役に立つ道具である。

 次に学校で習った計算道具は計算尺。竹製の物差しを少し厚めにし、中央にスライドする物差しを組み込んだようなものだ。これも今使っている場面を見ることは皆無であるが、ネットで検索すると市販品もあるらしい。要するに中央の「物差し」をスライドさせて、目盛りを合わせ、足し算や引き算をすると、あら不思議!かけ算や割り算の答えを知ることができる仕掛けになっている。もう遥か昔のことで忘れている人も少なくないかもしれないが、足し算がかけ算になるのは、一方の目盛りを対数にしてあるということである。したがって、これも計算できるだけでなく、対数の概念を学ぶには格好の道具である。得られる答えは、算盤の精度には及ばない。

 大学時代の物理化学の実験では「タイガー計算機」を使った。ネットで見ると、この機械は1970年代まで販売されたとある。我々は最後の世代に近い。当時このタイガーが絶滅危惧種であることは知らなかった。桁数の多い掛け算と割り算に使う。カチカチと爪を動かして数字を合わせる部分と、右手には手回しのハンドル。そして、そのハンドルで合わせる数字を表示する窓のようなものからなる機械である。掛け算は比較的簡単であるが、割り算の答を求めるときには、1桁ずつハンドルを回して、「チーン」とベルの音が鳴る瞬間に手を止めなければならない。行き過ぎてしまっては正確な答えが求められない。またやり直さなければならない。したがって、ハンドルを回す速さと「チーン」の瞬間に手を止める運動神経が計算の速さを決める鍵である。仲間と競争したものだ。

 この手回し計算機を市場から駆逐したのが「電卓」である。「電子式卓上計算機」の略だ。これは皆さんも良くご存知と思うが数字と「×」や「÷」のキーを押すだけで計算できるのであるから、それまでのものと比べたら革命的な道具である。おまけにルートを求めるための計算をしなくてもキーを押すだけでおしまいだ。「卓上」といっても、一般的に使うものは手のひらに乗る。一時は、「日本からのお土産は、これ」という感じもあったらしい。

 ここから先はややこしい。「電卓」から「電子計算機」となると、広辞苑の説明にも最後に「コンピュータ」と書いてある。「卓上」のものは、最早、卓上とは言わず、「desk top」と称し、ホントに机でもなければ使えない大きなものとなる。「電子式卓上計算機」とは一線を画する代物である。前にも書いたが、「コンピュータ」の出始めの頃は、私は何故「計算する機械」で文章を書いたり、お絵描きしたりするのか不思議でならなかった。今では、「タブレット」という、機能とはまるで関係ない名称の、電話かコンピュータかカメラか、わけ分からないものを皆さん使っている。そしてこんな戯言を言っていては、「前世紀の遺物」と排除されることになりそうだ。

算盤(実際には軸の数はもっと多い)