タケノコと種無しブドウ

2016.05.10

 今回は季節の風物タケノコを題材にチョッピリサイエンス。

「竹」 萩原朔太郎 『月に吠える』所蔵

光る地面に竹が生え、      かたき地面に竹が生え、
青竹が生え、          地上にするどく竹が生え、
地下には竹の根が生え、     まつしぐらに竹が生え、
根がしだいにほそらみ、     凍れる節節りんりんと、
根の先より繊毛が生え、     青空のもとに竹が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、   竹、竹、竹が生え。
かすかにふるえ。

 有名な萩原朔太郎の詩集『月に吠える』に納められている「竹」という詩の一部である。初の口語による詩集として有名であり、「かすかにけぶる繊毛が生え、かすかにふるえ。」のあたりは朔太郎の繊細な神経を表すものとしても知られている。「繊毛がふるえる」辺りは普通の人にはイメージしにくいが、「地上にするどく竹が生え、まつしぐらに竹が生え」とくれば、誰でも納得だ。「竹を割ったような性格」と言えば、皆真っ直ぐな性格を思い浮かべる。「雨後の筍」といえば、なんとなくあまり良いイメージはないが、ぐんぐん大きくなる、増える様子が伝わる。

 さて、ここで話は一転。動物も植物も生まれてからあるいは発芽してから大きくなるのは、成長ホルモンなるものが、体内に分泌されるからである。ホルモンはほんのチョッピリ分泌されるのであって、焼いて食べる程多くない!「ホルモン焼き」とは誤解を生む表現である。我々人間の場合を考えてみると大体20歳前後まで、実にバランスよく体のすべての部位に分泌される。手は大きくなるが足の大きさは変わらないというようなことがあっては一大事だ。骨は伸びるけど手足の長さは変わらない、ということもトンデモナイ。ある年齢になって分泌が止まらずに、ドンドン身長が伸びたら家に入るたびに茶室に入る気分を味わうことになる。

 植物も成長ホルモンを持っている。稲にある種の菌が感染すると、馬鹿苗病になる。驚くべきことに、この病気の原因は菌が植物成長ホルモンを分泌するためである。冒頭の詩のように「まつしぐらに竹が生え」の状態になりつつあるタケノコでは、このホルモン即ちジベレリンが多く分泌されているので、グングン成長していくのである。

 また話は一転。ジベレリンが植物の成長を促すなら、植物の果実をこのホルモンで処理すると早く大きくなって熟するのではないかと期待した人がいた。至極当然の発想である。ところがところが、実際にブドウで試してみると、ナント種無しブドウができたのだ!このような予想もできないことが起こるところが化学の面白さである。大変複雑な構造であるが、興味をお持ちの方もおられるかもしれないので、ジベレリンの1種(このホルモンには構造類似の多くの種類がある)の化学構造を示しておく。
 植物ホルモンの構造はこのような複雑なものとは限らない。究極的に簡単な構造の植物ホルモンは、驚くべきことにエチレンである。この化合物は果実の熟成を促す。大変揮発性の化合物であるが、リンゴ等を袋なり箱に入れ、エチレンを一緒に封じ込めれば、リンゴはトラックの荷台で熟するのである。
 エチレンはしかし、化学工業の出発物質として大量に使われている方が重要である。そのまま沢山つないでポリバケツや買い物袋になる。また塩素と反応させてから繋ぐとポリ塩化ビニル(塩ビ)となる。さらには、ポリスチレン(透明なコップ、発泡スチロール等)や合成エタノールもエチレンからの製品である。化学は「化ける学問」という名に相応しい。