挑戦が力を生み、継続が力を深める

2016.04.10

『ある人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて、的に向かふ。
師の言はく「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。毎度、ただ、得矢なく、この一矢に定むべしと思へ。」と言ふ。わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろそかにせんと思はんや。懈怠の心、みずから知らずといへども、師、これを知る。この戒め、万事にわたるべし。』
 少々引用が長くなったが、これは皆さんご存知、兼好法師「徒然草」の「ある人、弓射ることを習ふに」と題する一文である。「2本の矢を持つと、どうしても1本目を射る時に心に隙ができてしまう」ことを戒めたものである。

 徒然草は鎌倉時代末期1330年頃に書かれたとされる説が有力らしいが、引用した戒めは時代を超えてまた弓矢だけでなく、勉強でも仕事でも、スポーツでも何事にも当てはまる大切な教訓である。大学新入生の諸君は、これから先4年もあるのだからと考えず、1日1日を大切にして頂きたい。今日という日は決して明日と同じではなく二の矢は絶対に無いのだ。

 昨年12月、「二の矢は無い」状況で、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は2つの離れ業に挑戦した。1つ目は、2010年5月に打ち上げられた金星探査機「あかつき」のことだ。その年の12月7日に金星を周回する軌道に入れる計画が失敗して5年間金星よりやや内側の軌道で太陽を周回していた。「あかつき」がやや内側なので、金星が太陽を10周する間に「あかつき」は11周して再び近づく。この一瞬を利用して、「あかつき」を金星周回の軌道に導こうという訳だ。当然スピードや方向を変えなければならないのでなけなしの燃料を使う。速度や方向も厳密に計算して、衝突しないようにまた宇宙の彼方に行ってしまわないように地上からコントロールしなければならない。これらのことを綿密で粘り強い準備で見事成功させたかに見えたが、その後の報告では『12月7日に実施した金星周回軌道投入中、金星探査機「あかつき」は思いもかけぬ事態に遭遇したと考えられ、残念ながら今回の軌道投入は失敗に終わりました。幸い私たちはまだ「あかつき」を手の内にしています。ミッションは失われたわけではありません』とある。残念!しかし、『私たちはまだ「あかつき」を手の内にしています』は現実のものとなり、その後予定していたよりは大きな半径で「あかつき」は金星周回の軌道に入った。今後興味あるデータを送ってくれるであろう。
 もう一つは「はやぶさ2」のスウィングバイ。こちらは2014年12月に打ち上げられ、宇宙の遥かかなたにある小惑星「リュウグウ」を目指すための方向転換に成功した。天体の引力を活用し、最小限の燃料消費で加速する方法という。当然、タイミングや力を加える方向等精密な計算が必要だ。こちらは成功裏に終わり、「はやぶさ2」はターゲットに向かって宇宙空間を孤独な旅を続けている。

 最後にJAXAのホームページある言葉を引用しておきたい。
『挑戦が力を生み、継続が力を深める。力を生み続け、広げることは簡単なことではありません。しかし、継続することでさまざまな「力」が深まります。』