60年の変化その3 衣服

2015.2.15

 私自身がこの目で見た世の中の変化、実際に体験した変化という壮大なタイトルのその1、2として、その割には重々しさが不足気味のインスタントラーメンとビールを取り上げた。今回は、着るものに注目。これらは前回に比べれば高価である。衣服には、カシミヤやアンゴラウサギのような超高級品もある。インスタントラーメンやビールと比べると、一気に高みへ達した感がある。しかし、超高級品は「体験」していないので、ここではやむなく割愛。

 私達が子供の頃の衣服は、多くは木綿製だった。下着もシャツもズボンや上着のたぐいも殆どは綿製品であったのではないか。ウールや麻の布は高価であった。セーターを着るときは、既製品ではなく毛糸を買って、人に頼んで編んでもらっていた。体が大きくなってサイズがあわなくなると、それを糸までほどいて編み直してもらう。当然毛糸を足さなければならないので、その分何らかの模様が入ったりする。ウールで作った学生服等は無く、高級な背広に使われていたようだ。高級感の象徴として「ウールマーク」がある。

 合成繊維の第1号はナイロンである。1935年にアメリカの大手化学会社デュポンのカローザス博士が発明し、1938年に工業化に成功している。デュポンのような大企業が全力を挙げても、実験室での成功を工業生産につなげるためには3年かかったということだ。1940年には、他社のものも含めて全米でナイロンストッキングが販売された。日本で最初に工業化したのは東レで、1951年から発売を始めた。この頃から化学繊維が次第に増え、1955年には早くも日米繊維交渉(Japan-US Textile Negotiation or Textile War)が始まっている。最近では、ポリエステルも大いに化学繊維の原料になっている。

 ここからチョッピリ(大いに?)サイエンス。ナイロンが発明される前にストッキングの材料になっていたのは絹である。これは肌触りが大変良く、直接肌に触れる衣服には最適であるが、木綿に比べれば高価である。絹とは、化学的に言えば、なんと肉や魚と同じ「タンパク質」の一種である。タンパク質は20種類のアミノ酸が沢山つながった化学物質でアミノ酸同士の結合は化学の言葉で言えば「アミド結合」と呼ばれる。

カローザス博士は絹と同じような肌触りの良い繊維をつくるためには、「単位となる化合物(モノマー)」をこのアミド結合で沢山繋げば良いのではないかと考え、見事ナイロンを発明した。ナイロンをもう少し化学的な一般名で言えば、ポリアミドである。「ポリ」とは、単位となる化合物が沢山つながっていることを意味する。このような化合物を一般にポリマー、日本語では高分子化合物という。ナイロンの場合には、「単位となる化合物」の大元の原料は、石炭からとれるベンゼンという化合物である。即ち石炭から絹と似た繊維ができた訳だ!

ナイロンのNHをO(酸素)で置き換えた化合物をポリエステルという。結合がアミド結合ではなく、エステル結合となるからだ。ナイロンという繊維がつくられた後なら、発想しやすい化学構造である。ポリエステルの代表選手は「ペット」。ペットとはpolyethylene terephthalateという化学的な正式名称の略である。決して「可愛い」という類いのネーミングではない。日常生活では、ペットボトル、Yシャツやズボンとしてお馴染みである。これらが化学的には同じ構造の化合物であると言われたら、驚く人も少なくないだろう。