香りのランキング

2013.12.10

 以前朝日新聞土曜版の「ランキング」を基に、西部劇に関して書いたことがあった(2012.08.28)。大分前になるが、同じ欄に、香りに関するランキングが掲載されていた。今回は、嗅覚についてチョットお勉強。

 人間の五感は視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つである。何となくそんな気がするというときの第六感は、五感以外の機能が働くという意味で、「第六感」である。五感のうち、もっともややこしいのが、他ならぬ嗅覚だ。言葉にもいくつかある。香り、薫り、匂い、臭い等、ニュアンスが違う。匂いを文字や数字で表し、皆に共通に理解してもらえることが困難である。先のランキングのリストにも果物や花の名前が並んでいる。

 視覚なら、赤橙黄緑青藍紫の基本があり、科学的に光の波長と対応できる。聴覚についても、音波の振動数・振幅、波形等で表現できるし、そこまでしなくても高い音・低い音・太い声等の表現で共通の理解は可能である。触覚も強い・弱い・ゴツゴツ・滑らか等いくつも表現法がある。厳密にやろうとすれば、物理量で扱うことが可能だ。味覚には基本的な「五味」がある。酸・苦・甘・辛・鹹であり、別の分類では、「辛い」を一つにして代わりに旨味を加えて、苦味・酸味・甘味・塩味・旨味とする場合もある。いずれにせよ、共通の認識を持てる。ところが、嗅覚だけはこうはいかない。例えば、レモンの香りとユズの香りは誰でも区別できるが、両者を適切な言葉で説明して下さいと言われると、これは絶望的である。一方、逆に「匂い」と「臭い」という具合に、同じ発音(におい)を漢字で区別し、感性に訴える点も他と異なる。

 そんな訳で、嗅覚の場合には「レモンの香り」、「バラのような匂い」、「ガス臭い」等と、経験したことがなければ分からない表現になる。「シャネルの5番」と言われても、正確に特定できる人は少ないのかもしれないが、何となくイメージするだけで十分ということか。さらに、「面倒臭い」等になると、漢字表現はあっても、最早「嗅覚」の範疇外である。それ程「アバウト」に使われるのが「嗅覚」の本質なのかもしれない。

 五感のうち、視覚、聴覚、触覚までは、何らかの物理的刺激の感覚であるが、味覚と嗅覚は、それぞれ舌にある受容体(味蕾)あるいは鼻の粘膜の受容体に化学物質が結合して感ずる。したがって(?)、両者は密接に関係する。香りのないコーヒーや紅茶、あるいはブランデー等は想像できない。食べ物でも温めて食べるものでは、多かれ少なかれ香りと共に味を楽しんでいる。うなぎの蒲焼、焼き鳥あるいはカレーライス等は典型的な例であろう。

 もしかしたら唯一の例外はブルーチーズかもしれない。人によっては、鼻をつまんで食べると聞いたことがある。そこまでしてでも食べたいと感じさせる食べ物も、大したものだと思う。

 付録:最後に鼻の受容体の形を想像して頂くためにいくつかの化合物の「形」を描いてみよう。メントールはハッカの香りである。イソメントールの方は似てはいるが、すっきりしているというよりチョット「ムッ」とくる感じで、とても香料としては使えない。紫色で示した部分(化学的にはメチル基)の向きが違うだけである。水はご存知のように無味無臭であるが、酸素(O)がイオウ(S)に変わっただけの硫化水素は腐卵臭といわれる。エタノール(C2H5OH)は消毒棉の匂いですっきりしている。この酸素がイオウに変わると、ガス漏れの臭いとなる。この場合は極めて淡い濃度なので「気がつく」程度ですむが、もろに嗅ぐと「鼻がひん曲がる」というくらいで、悪臭の王様である。なお、都市ガスは無臭なので、漏れた際にすぐ気がつくように、悪臭の王様をわざと少量混ぜるのである。使い様で、悪臭物質も役に立つ。
 

メントール・イソメントール
 
 

 メントールとイソメントールの模型も示しておこう。黒は炭素、淡青は水素、赤は酸素を表す。 

メントールの模型 イソメントールの模型
メントール   イソメントール